長いお別れ

一覧へ

長いお別れ

 医療系ミステリー小説が好きなので、毎年日本医療小説大賞も楽しみにしています。第5回の今年は、「長いお別れ」(中島京子著)でした。今年早くに、本屋でぶらりとしていたときに、おもしろそうと思い、購入していた本でしたので、早速読みました(読んでいなかったということになります)。認知症を患ったお父さんを、明るく献身的に介護するお母さん、既にそれぞれの道を歩み始め、始めは人ごとだったように感じていた娘三人が、両親を中心に協力しあう様子、優しい家族の物語でした。言葉がままならないお父さんと、失恋した娘の、食い違いながら心は通っている電話の会話にはどっちも悲しくて泣けました。お父さんはきれい好きで、お父さんがお母さんのベットにそっと自分のう〇ちを置く、と淡々と話をする、網膜剥離になり緊急手術、ガスタンポナーデのためにうつぶせを必死にするお母さんと娘の様子は、大変なことばかりなのに、すべてのことが受け入れられている心の広さを感じました。なぜ、ここで出てくるのが網膜剥離なのか。「うつぶせ」の章には、体験した方でなければわからないことも書かれていました。著者の実体験なのでしょうか。不思議な縁を感じました。
認知症を、英語では、ロンググッドバイ(長いお別れ)とも言うそうです。少しづつ記憶を失くして、ゆっくりゆっくり遠ざかった行くからだそうです。ゆっくりゆっくりであることが、周りの家族が理解するためにも、とっても大事なことだと、この本を通して思いました。(院長)