EBMとNBM

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EBMとNBM

先日朝日新聞にて興味ある社説を読みました。
「語りに基づく医療(Narrative based Medicine,NBM)」に関してです。
現代の医療は、「根拠に基づく医療(Evidence based Medicine,EBM)」が基本で、医師個人の経験による治療ではなく、しっかりと検証された事実や根拠に基づいた医療を実践するというものです。それにより医療水準は向上したと言われています。
その社説の中では、「治らない病気」を扱う病院で働く医師は、患者さんに「治らない病気であることの告知」を日々行う中で、NBMの必要性を痛感しているとのことでした。

「告知において重要なのは、患者とのコミュニケーションを通して、病気とともにある新しい人生の意味を患者に発見してもらうこと、そのためにはNBMが大切」と医師は語り、「告知をするときに、最も重要なことは絶望とともに人生を放棄させないこと」と筆者は書いていました。
「語り」とは、患者の生活や人生の語りを聞き、さらに医師自身の思いを語り、そこから一緒に新しい人生の意味を見つけていくこと、と書いているものも他の雑誌で見かけました。

私の知人が肺癌の告知を受けたときのこと、家族は「本人に癌と言わないでほしい」と主治医へお願いしたところ、主治医は「癌と話さなければ、抗癌剤の治療はできないので無理です」とぴしゃりと言ったそうです。主治医の言葉は間違っていないと思いますが、余命いくばくもないことを知った家族にとっては、これからの本人の闘病生活を支えるよりどころを見失ったのではないでしょうか。

眼科で命を落とす方はごくまれですが、進んだ緑内障や黄斑疾患で失明に近い方はいらっしゃいます。「治らない目の病気」です。ここで振り返ってみると、「今の医学では今の治療が精一杯です」と淡々と語っている自分がいます。NBMを実践できるよう努力が必要と思いました。(院長)